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「鬼門北方に厠(かわや)あるは、土気剋害強くして鬼門の祟り大なり、些かの物も障り甚だしく、遂に家滅の不幸に至る」。「南西の鬼門に厠あれば、もっとも祟り害強し、且つ又牛馬も育ちがたし、主人病身にして短命なり」。これは、古い家相書の中の一節で、「厠」について書かれたものです。厠とはトイレのこと。
つまり、北東の鬼門や南西の裏鬼門にトイレをつくると、さまざまな災いが起こると言っているものです。時代が移り、厠からトイレへと呼び名が変わっても、「祟り」だの「家滅」だの「短命」だのという言い伝えを気にする人は多く、トイレは家相の中でも最も心配される場所といってよいでしょう。
これはプロの側も同じで、トイレだけは鬼門から外しておきたいと考える業者も多いのです。施主の要望がなくても、トイレだけは鬼門(北東)から外して設計することもよくあります。なぜなら、工事が始まってから、急にトイレの位置を変更してほしいといわれるケースもあるからです。当初は気にしていなかった施主も、親戚や友人から鬼門にトイレがあることを指摘され、不安になってしまうことも多いからです。
私も住宅の営業時代には、そのような経験を何度もしました。1979年には、「トイレが鬼門にかかっている設計は瑕疵(かし)である」という判決が名古屋地裁でありましたが(もっともこれは、鬼門にトイレがあること自体ではなく、施主が鬼門からトイレを外してほしいといった希望に対して、業者側が了解したにもかかわらず、その約束を守らなかったことが瑕疵であるということですが)、そんな判例があるほど、鬼門のトイレは嫌われているのです。
しかし、数多くの住まいを拝見している家相研究家として、鬼門にトイレをつくっても、祟りが起きたり、家が滅びたり、主人が短命になるようなことはないと、私はお話しておきます。鬼門にトイレがあっても、家族みな健康で、幸せに暮らしている方はたくさんいますし、実際に私のオフィスも、鬼門にトイレを設けています。
「家相とは?」の中でもお話したように、家相とは「迷信」と「理にかなうこと」が混在する厄介なものなのです。トイレにまつわる脅しめいた言い伝えは、このうちの迷信に過ぎません。これらを恐れることだけで、トイレの方位を考慮するのであれば、その必要はないでしょう。しかし、「鬼門とは?」でお話をしたように、鬼門には「寒さ・暑さ」という方位の特徴があります。この方位の特徴は「理にかなうこと」であり、同じ家相書の言葉も、この方位の特徴を考慮しながら読んでみると、鬼門の寒さや暑さに注意せよという先人の思いが読み取れると思います。
たとえば、「鬼門、北方に厠あるは…家滅の不幸にいたる」という言葉は、「北側や北東のような寒い環境の場所にトイレをつくると、寒さから排泄時に血圧が上昇しやすく、脳卒中や心筋梗塞で倒れるケースが多いから注意してくださいよ」、と伝えているものと考えられますね。

あの「川中島の戦い」で有名な上杉謙信も、戦の最中に厠(かわや)で倒れ、脳出血で4日後に死亡したといわれています。気密性能の高い現代の建物では、昔ほどは心配する必要はなくなりましたが、それでも、北東や北側は住まいの中でも冷える場所です。冬季は暖房を工夫するなどして、現代でも注意をしていただきたいですね。
また、裏鬼門のトイレを凶とするのには、昔は水洗ではなく、排泄物を溜め込む便槽であったことから、衛生面での心配があったのです。午後の強い日差しが当たる南西にトイレをつくると、雑菌が繁殖しやすく、臭気もかなりのものでしょう。また、暑さが厳しい環境では、排泄時の体の負担も大きいですから、それらは「牛馬も育ちがたく、主人病身にして短命である」ほどだったのだと、私は理解しています。
トイレの環境は、昔より格段に改善されたといえども、現代でもトイレは北側につくられることがほとんどです。また、トイレの床の段差がなくなり、バリアフリーとなりましたが、逆にトイレ内の雑菌や埃、抜け毛なども移動しやすくなりました。水洗トイレの水を流す音も、夜間は結構気になるものですし、気密性能の高い住まいの場合は、床に落ちた小水の染みが意外に臭ってしまう場合もあります。
早く就寝するお年寄りの寝室や、清潔さを保ちたい台所やダイニングなどとは、ある程度距離を置くことも大切でしょう。トイレ用の暖房や消音型の便器、掃除がしやすいトイレ専用の床材を使用するなど、冬でも暖かく、清潔で快適な空間をつくることが、現代の吉のトイレといえるのです。
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